1. 研究環境
2008年は百日咳菌関連で大きな進展があったと自負しております(まだ論文にはなっていませんが)。百日咳菌は感染するとヒトの気道に長期定着をはかりますが,また,激しい咳を長期間にわたり惹起しつづけますが,発熱や炎症反応をほとんど誘導しません。こういったことはどうしてなんだろう?ということで,気管支敗血症菌をモデル菌株として研究を進め,最終的にIII型分泌装置によって宿主に移行するエフェクターが「宿主免疫系の指令を積極的に書き換えている」を明らかにしました。これについては桑江君(ウプサラ大学に留学中)の仕事を受け継いで,永松さんが中心となって行いました。2009年に論文の決着をつけます。
一方,全学的なプログラムとしては北里大学感染制御研究機構が新たに発足し,この機構を足場にして産官学のハブを構築しつつあります。このような機構を通じて外部への発信を行い,プロジェクトの一部が第一三共製薬との共同研究体制に繋がっております。これについては最終的なプロダクト,つまりワクチンを本学で自前で創りだす事ができますので,将来的に北里大学の感染制御のノウハウを社会に還元していきたいと思います。
2. スタッフ・学生さんについて
2007年の年頭所感にて,今年はスタッフ枠の強化を図ると書きましたが,これについては実行できませんでした。ということで永松さんが孤軍奮闘し,彼女に2−3人分の豪腕をふるって頂きました。2009年は永松さんが米国に留学しますが,留学を糧にして最終的には自分のラボを主宰してほしいです。永松さんと一緒に論文を書いて本当に楽しかったです(論文を投稿中です)。留学中の桑江君もウプサラ大学で頑張っております。彼が扱っている病原菌は遺伝的な手法があまり確立されていないで大変そうですが,それだけにやりがいがありますね。是非ともがつんといって下さい! 学生さんも頑張って何とかついてきております。春には久留島君と武末さんが大学院を修了します。武末さんは就職,久留島君は博士課程に進みます。また大滝さんは修士2年になります。
3. 出会い
今年もたくさんの方々にお世話になりました。また,様々なフィールドの先生方との出会いを通じて,自分なりに研究の幅をひろげる事ができたと思っております。ということで時系列的にまとめます。
1月: John Leong 博士 (University of Massachusetts Medical School) がシンガポールでシンポジウムがあるので,そのついでに寄って頂きました。そのときのディスカッション内容が永松さんの論文の後半を支えていますので,人との会話は重要であると実感!
2月: 帯広畜産大学の嘉糠さんのところでセミナー。宇宙人,嘉糠さんとの遭遇。ラボのシステムや研究のスタンス等,とても勉強になりました。現在,GCOEの拠点リーダーとしても活躍されておりますがこれからも猛進,間違いなしでしょう。また,若手コロッセウム,ご協力頂きましてありがとうございました。
3月: 京都の細菌学会にて,カナダのJohn Brumell博士, ロッキー山脈にあるNIHブランチのJean Celli博士, Lee Knodler博士 (オリビアのラボに所属)との10年ぶりの再会。Brett Finlay 博士のラボに留学していたときに3 人に出会いました。なかでもJeanのほうは留学中の一番の友人です。留学当時,Jeanは独身で妻の焼いたスコーンをいつもねだるので,おやつのスコーンは2人分をラボにもっていくようになりました。いつか会おう,といってカナダをあとにしましたが日本で再会できてよかったです。
3月: 超微形態学のエキスパートでありました関矢先生が,北里大学薬学部を退官されました。留学から帰ってきてラボに何もなかった時代に,関矢先生には大変お世話になりました。EPECのIII型分泌装置の超微形態学の共同研究で,満身創痍で頑張った事が懐かしいです。長い間,本当にありがとうございました。
6月: 平山先生に呼ばれまして長崎大学にて細菌学の講義(細菌の分泌装置を中心に)。長崎大学の学生さんはすごく熱心でした。他大学と比べて,うちの大学院生のほうが寝ているのが気になりますが(しかも他大学はほとんどが学部生),自分のプレゼンが何処まで通じるのか,はじめての講義で何処まで理解して頂けるのか,自己点検になりますね。また平山先生がどのようにして,これまでのヘリコバクターの研究を発展されてきたのかお話を伺うことができました。
そして,長崎を訪れたらココです。
8月: 若手コロッセウムで燃え尽きる。このような研究会を企画したのははじめてでしたので,うちのラボの人数でこんなことができるのかと不安でしたが,トラブルもなくなんとか無事に終える事ができました。この研究会は私のブログにもよく登場する堀口さんが第一回の世話人でしたので,堀口さんにお世話になって,なんとか開催することができました。シンポジウムとして小安重夫先生(慶應大学医学部)にお願いして,先生のご研究内容につきまして,これまでの先生のご経歴を交えてお話しして頂きました。お忙しいところ,ありがとうございました。このような研究会を開いたら同じようなことができるか?といわれたら自信がありません。それぐらい自分としては燃え尽きました。 北は嘉糠ラボから南は鹿児島大学まで本当にたくさんの方々のお世話になりました。ちなみに,最多出席人数は大阪大学でした。
9月: あわじしま感染症免疫フォーラムにて永松さんが口頭発表に選ばれました。このフォーラム,元気があって良いですね。永松さんはこのフォーラムに招待された先生に気に入られて,ちゃっかり留学の交渉?も進行中であります。このフォーラムには著名な先生方がたくさん来られるので留学を考えている方は,どんどん活用してほしいですね。あ,私の方は教育講演を行いました。しかし,重要な間違いがありました。III型分泌装置のエフェクターはどのようにして分泌されるのか,その駆動力はどこから得られるかというプレゼンで,ATPaseであると述べましたが,じつはプロトン駆動力でありました。2008 年のトピックスでもあるのに申し訳ござません。もちろんATPaseはエフェクターを分泌装置へ装填する役目を果たしておりますが,またエフェクターのときほぐしにも関与していると思われますが,エフェクターが針状構造のなかを通って宿主細胞に送り込まれるまでのエネルギーはプロトン駆動力が主役であります。この場をお借りして訂正致します。
9月: 韓日微生物会議で初韓国。アジアの国というのは近いのにあまり訪れた事がありませんでしたが,今回,韓国を訪れて,研究交流をできた事は有意義でした。また,韓国の方々には本当に親切にして頂きました。バクダンという飲み物,すごかったですが,とことんお話することができました。2年後は横浜で開催されますが,再会を楽しみにしております。
10月: 細菌学会関東支部総会にて久留島君がベストプレゼンテーション賞を受賞。久留島君は頂いた副賞の商品券で洗濯機を購入しました。これからも洗濯をするたびごとに,さらなるベストプレゼンテーションを目指してほしいです。ちなみに留学中の桑江君も過去にこの賞を頂いております。
以上が2008年の主な出来事でした。多くの方々に支えられてなんとか無事に2008年を閉じることができました。私一人では何もできませんが,こうやってかいつまんだだけでも多くの出会いがあって,ここまでこれたと実感しております。ありがとうございました。