2010-09-11

第10回あわじしま感染症・免疫フォーラムに出席して

今回は10回めのフォーラムです。区切りの良い数字で,招待演者として多くの先生方の前で話すことができたのは,幸運であったと思います。ありがとうございました。

1999年の3月にカナダ,ブリティッシュ・コロンビア大学から北里研究所に復職して約10年が経ちました。帰国してボルデテラ研究を開始するときに,東大医科研の笹川先生のもとで学位を取得した桑江君(現講師)が当ラボに入ってきてくれて,ほぼゼロの状態から立ち上げ,ここまで牽引してきてくれたことに感謝です。

今回のプレゼンは永松さん(現Washington University in St. Louis)のBopNエフェクターの研究内容がメインでした。彼女は2年前のあわじフォーラムにて,BopNのポスター発表からオーラルプレゼンに選ばれました。そのときに招待演者であったScott J. Hultgren教授にスカウトされ,ポスドクとしてセントルイスで研究に励んでおります。


さて,今回のあわじでは「当分の間はここで頑張って,きっちりとしたアウトプットをだしてやるぜ!」という出来事がありました。さて,そこで色々と考えたのです。残りの研究者人生を何に使うのか? これまで漠然と考えていたことを,はっきりと自分の目の前に提示してみました。結論としてボルデテラの基礎で10年やってきたので,次の10年はワクチン開発も視野に入れていこうと思いました。正直な話,ワクチンにはあまり興味がありませんでしたが,天命を知る年齢が近づいてきたこともあり,あと10年で何かを残していきたいと純粋に思うようになりました。論文も今まで歩いてきた軌跡として残りますが,しかし,数年前の論文ですら,すぐに忘れ去られてしまいます。研究者は前に進むことによって,研究者としての存在理由があるのですから,あとに論文が残されるという思いは自己満足にしか過ぎません。

そうなると,人材育成と社会還元に使おうというのが,僕の今後の10年のスタンスであります。そこで,n数をもっと確保できるところに研究拠点を移すというオプションも視野に入れて頑張ってきましたが,これについては可能性がゼロになり,再考しなければなりません。社会還元のほうは百日咳ワクチンをリモデルしていくというプロジェクトです。過去に北里研究所で樹立した東浜株は,昨今の百日咳の流行を見てみますと改良の余地が残されています。もちろん基礎あっての応用のスタンスは崩しませんが,残りの10年は社会還元することで,これまでお世話になったスタッフや諸先生方へ感謝をこめて,ペイ・フォワードしていきたいと思います。

また,視点を変えればどこに所属していても,きちんとグラントを獲得することで,人材育成のn(数)の確保は可能です。肝心なのは現状のシステムに合わせることではなく,現状のフレーム外から考えることなのです。まだまだ未熟ですが,今回のあわじは自分にとっても区切りとなる10年の集大成でした。これまで,僕は十分,研究を楽しむことができました。あとの10年は社会還元と,既存のフレームを取り払ったところで,人材育成のシステムを再考していきます。もちろん,基礎の領域でもリベンジしていきます。

追記: 今回のあわじでは,僕のほかに2名のスタッフと学生さん1名が参加しました。ここまで何とか途切れずに僕の研究環境があるのは,スタッフや学生さんのサポートがあるからです。ここ数ヶ月間,いくぶん足元がふらついていましたが,今回の学会できちんとリセットされ,ある意味絞り込むべきところが見えてきました。全ての繋がりに感謝致します。