2010-02-06

酔っぱらい

時計を見ると深夜の12時を回っていたが,運良く,近所の小さなレストランが空いていた。ここは外国の親切なおじさんが経営しているお店で,家族でお世話になっている。入り口付近の席に,酔っ払ったおっさんがテーブルに突っ伏して寝ていた。俺は「おじさんもう閉店だよ。家に帰りなよ」と背中をポンとたたいた。その酔っぱらいのおっさんは,片手をあげてわかったというような仕草をしたが,また眠りこけてしまった。

食事がすんでお金を払って外に出ようとすると,レストランのおじさんが身振りで,この人を起こして欲しいと俺に頼んできた。日本語はほとんどできないから,酔っぱらいの扱いに関する日本語もほとんど皆無だ。それにおじさんの国には酔っぱらいが,マジでいないのかもしれない。この親切な外国人が可哀想なので,手伝ってあげることにした。

「もう店閉まるから,起きなよ」
「あんまり迷惑になると,警察を呼びますよ」と声をかけた。

酔っぱらいのおっさんは,時折テーブルから体を起こして眼をつぶったままうんうん頷くが,またテーブルに突っ伏した。そのときに,テーブルにあったメニューやホークが,ばーっと床に散乱した。外国人のおじさんはうろたえた。たぶん,こんな経験は初めてであったのだろう。経験では俺の方がかなり上だ。しかし,俺は瞬間的にカチンときて,

「おい,この酔っぱらい,起きろ」と怒鳴った。

それまで現実逃避していた酔っぱらいは,「酔っぱらい」と他人に言われ,やっと現実世界に帰ってきた。

やあ おかえり,現実の世界へ。

いきなりむくっと立ち上がり,充血した視線で「何だとー,この野郎」と怒鳴ってきた。今までの泥酔ぶりは何処へいったのだろう? 「おまえみたいな奴に,,,この野郎」と,一歩踏み出してきた。これも酔っぱらいの典型的なパターン。しかし,こんな酔っぱらいのパンチでも顎あたりにクリーンヒットするとやばいので,ステップバックして半身で構えた。フォークはさっき床に落ちたし,まわりには酔っぱらいが武器として使えるものはなさそうだ。間合いを維持しながら「レストランは,もう閉まるから,出て行け」と言った。酔っぱらいは散々罵声を浴びせながら,外へ出て行った。最後に「おやすみ」と酔っぱらいにいうと,「ばーか」「おまえなんか,ばーか」と言いながら,タクシーに乗っていった。

******

やれやれ。レストランのおじさんには,「日本には酔っぱらいがたくさんいてごめんね」「日本人として謝る」と言って,店をあとにした。

外国と日本での酔っぱらいの扱いは別次元だ。日本でなら「まあ,あの人は酔っ払っていたからしょうがない」で,済まされるケースがほとんど。外国では酔っぱらいの時点で,かなり深刻にアウト。かなり人格的にアウト。酔っぱらいはありえない行為。俺も外国で酔っぱらいをみたことは,あまりない。外国のバーでダーツをして,俺が勝ったときに「それは俺のルールと違う」とからまれたのが1回だけだ。外国では,酔っ払った上に(この時点でかなり社会的にアウト),他人に迷惑をかけた(もう終わっている)。要するに2重の反社会的行為で裁かれるわけ。日本だと「酔っぱらい=しょうがない」で,酔っ払っている間の愚行は全て帳消しになるような感じ。

ちなみに酔っぱらいの正論も嫌い。酔っぱらい的には,日ごろきちんとやっているのだから,酔っ払ったときぐらいはハメを外してもいいじゃないか,と勘違いしている。そこが常日頃,酔っ払ってしまう人の認識の大きなズレ,甘え,だと思う。最大にむかつくのは,あれだけ散々好き勝手言ったのに,翌日,まるで覚えていなかったりすると,バックチョークで締め落としたくなる。本人は,翌日,何も覚えて無くて,「ま,いいか」ぐらいの軽い感じでリセットするけど,飲みに行った周りの連中は,あいつまたかと,きちんとその愚行をカウントしているわけ。しまいには,あいつは仕事するけど,酔っぱらいだからと,切り捨てられる日も来るでしょう。酔っぱらいはタイムリーな話題(註)なので,敢えてアップします。

いやしかし,単なる嗜好品で,人生を棒にふることもあるまいし。

楽しくお酒を飲むのは,大いに結構。
でも,自分がなくなるまで飲むのはどうよ。

註)あまりにも早すぎた引退でしたが,まあ,しょうがないですねえ。