2012-06-17

鶏口牛後


今年度の第一回のオープンラボが終了しました。学生さんには,雨のなかお越しいただきまして,ありがとうございました。各研究室の説明会が行われた後に,研究室の個別訪問がありました。岩手からきた学生さんが,研究室見学にお越し頂きました。感謝です!

僕が学生だった頃は,大学院に行けば何とか就職できる時代でした。就職活動もなく,教授が推薦してくれた会社に入るという感じでした。話を戻すと,今は,就職難で大変な時代ですから,そういった状況で「ここの大学院は,何をやっているのだろう?」と見学に来て頂いただけでも有り難いですね。

感染制御に携わる大学院はたくさんありますが,少なくとも細菌分野においては,我々のラボも,まあまあいい感じのポジションにつけているかと思います。学校法人北里研究所なので,細菌関連の研究に関して,ある程度のスタンダードをクリアしておかなければ学祖に張り倒されます。

さて,僕のラボの状況です。

たくさんの学生さんの面倒は見られないけれど,来て頂いた学生さんには丁寧に指導しています。修士で原著論文を出した学生さんもおりますし,今年4月に博士課程を修了した久留島君は,ファーストオーサーで4報出しました。彼が最後に出した論文は,ボルデテラ属細菌のエフェクター領域では,それなりの評価を受けるだろうと思っております。

さて,僕から学生さんへの質問です。どういった基準で,皆さんは大学院を選ぶのですか?

一流研究室に入って,論文を書いて,学振>ポスドク>ポジションゲットみたいな路線もオススメします。しかし,トップクラスの研究室によっては,CNSに偏重しすぎて,皆さんが思っているように論文を出せないかも知れません。僕は,学生さんには最初の一報を手早くまとめてもらいます。そしてD2ぐらいで学振を獲ってもらって,ある程度の基盤を作ってから,大物狙いにいってもらいます。これが理想です。学振を取れば,次のステップアップにも有利ですし,学生でありながら自分の研究費がつきます。いわば「鶏口牛後」路線です。論文を複数書いて自信をつけてから,外に出て欲しいと思っています。ビッグジャーナルに1報出しても,本当に自分で書けるのか? と一抹の不安がよぎります。博士課程で2−3報出したほうがあとあとの人生に有利であると,僕は考えます。思ったように論文が通らずにIFが低くなっても,自分の出した論文に100%の愛着を持ってもらいたいですね。もちろん,ラボの戦略的にIF狙いは重要です。しかし,学費を払ってもらっている学生さんには(私学は学生さんの学費でなりたっているので,なおさらです),IFよりも研究者として,正しい資質を身につけることのほうが重要であると思っています。そういったなかに,自分で原著論文を仕上げる,というノウハウも含まれております。

博士課程の場合,まず,学生さんに英語で論文を書いてもらいます。そこに万年筆で訂正を入れていきます。基本,手作業になります。最初は万年筆のインクがあっという間になくなりますが,徐々に直す部分が,少なくなっていきます(僕はこの過程に,喜びを感じるのかも知れません)。もう少し,気の利いた方法があるのかもしれませんが,この部分だけは原始的な形態で,進めております。研究者は理系でありながら,最終的なところで,文系的?な要素で判断されてしまいます。骨子が通っていない論文は,それだけでアウトです。研究者として生きていくには,ほんとうに大変ですね。

最後に。

学生さんに,僕の考え方が何となく伝わったのなら,幸いであります。

それでは,より良き人生を!