2011-05-17

腸管出血性大腸菌:感染ルートについて


腸管出血性大腸菌(EHEC)感染が世界的に知られるようになったのは,1982年に米国オレゴン州とミシガン州で同時に起きた集団食中毒事件に端を発している。これらのEHEC感染は,同じファーストフードチェーン店のハンバーガーを喫食したことで起きた。1993年にはハンバーガーによるEHEC食中毒で,シアトル近隣で700人以上の感染者を出した。EHECによる食中毒の特徴として,生産・流通システムが発達している先進国で発生する場合が多く,上記事例ではハンバーガーチェーン店の流通網を通じて全国に拡散していった。

EHECによる食中毒は米国,カナダ,英国で多数報告されている。我が国でのEHEC感染による最初の死亡例は,1990年に埼玉県浦和市で起きた集団感染においてである。1996年にはEHEC感染による世界的に類を見ない大規模食中毒事件が我が国で発生した。翌年1997年には全国での感染例が700人弱に減少し,以後,EHEC感染による大流行は起きていない。しかしながら2008年のサーベイランスではEHEC感染症患者および無症状病原体保有者が4,330例報告され(国立感染症研究所感染症情報センター「病原微生物検出情報月報」),いったん下火になったEHEC感染者数は近年になって徐々に増加の傾向にある。

EHECは羊や豚から検出される例もあるが,一般的に牛が自然界における保有動物(reservoir)である。EHECは3週齢以上の牛に感染しても発症しないが,大腸に定着したEHECは増殖を繰り返し,糞便中に100-1,000,000 CFU/gもの菌を排出するために,汚染源を拡大させる要因となっている。2000年の米国のサーベイランスでは,検査した牛(計327頭)の糞便から28%という高率でEHECが検出され,米国における牛とその周辺環境のEHEC汚染は深刻な数字になっている。EHECが牛糞便中から排出されるサイクルは,季節によって大きく変動する。英国でのサーベイランスによると,糞便中のEHEC検出率は春先には38%に上昇するが,逆に冬場では4.8%に減少しており,カナダとオランダで実施されたサーベイランスでも同様な結果が得られている。EHECによる食中毒は夏場に向かって増加傾向にあり,保有動物からのEHECの排出サイクルと一致した傾向にある。このような背景からEHEC食中毒の制御は,保有動物である牛からいかにEHECを排除していくのかが課題となっている。

EHECによる食中毒は汚染した牛のひき肉や乳製品を使用した料理で加熱が不十分な場合に起きるが,乾燥サラミやソーセージ等からの感染例の報告もなされている。通常の細菌が増殖しにくい酸性度の高いヨーグルトやアップルサイダーからの感染例も報告されている。EHECは最低10菌数でヒトに感染を成立させることが知られているが,これは胃酸の攻撃に曝されても殺菌されない酸耐性をあらかじめ獲得しているからである。少ない菌数で感染が成立するために,湖での水泳による感染例の報告や二次感染者を容易に出すのがEHEC感染の特徴である。