2023-12-04

幼稚園に入る前の記憶

 幼稚園に入る前の鮮烈な記憶として,「僕は大きくなる前に死ぬだろう。」と思っていた。

ものすごい腹痛がして身体を丸めていると収まっていく。それの繰り返しで,「今は死なないけど大人にはなれない。」という気持ちが強かった。

この痛みをしばらく隠し続けていたけど,ある日,母親にバレてしまい,結局,盲腸の手術を受けることになった。結局,死に至る病ではなかったので安堵したが,侍の時代なら死んでいたと幼心に思ったことがある。

あと,幼稚園児の頃の小さいというのが不安要素であった。台所の蛇口になかなか届かずに,届くまでは安心できない恐怖症にかられていた。両親は共稼ぎで,両親が帰ってこなくて水が飲めなければ死んでしまうかもしれないと思っていた。だから,はじめて蛇口を捻って一杯の水が飲めたときには,ものすごい達成感を味わったのを覚えている。「僕は水が飲めなくて死ぬことはなくなった」と思ったことを覚えている。

孤独という感覚をはじめて体験したのは,3歳ぐらいだったと思う。玄関の植木にトンボがとまっていた。僕は息を殺してトンボを捕まえようとする。枝さきに止まったトンボが飛ばないように,指先をくるくる回して近づいていく。そのときに不意に僕は孤独なんだという感覚を知った。

幼稚園,小学校に入ると先生に怒られるようになり,自分のなかで湧き上がる静かな感覚に耳を傾けることができなくなった。

それぞれの昭和。氷室でプリンが固まるのが不思議に思った昭和。