「もっとよくわかる! 感染症」が,ついに本屋さんにならびました。羊土社編集者の山下さんから,感染症関連の本についてのお誘いがあって,それから2年間におよぶ執筆活動に入りました。
単著で参考書を出すという機会は,これがはじめてでした。途中,ゴールまで辿りつけないと,諦めかけたことがありました。しかし,ここで諦めたら次はないと思い,とにかくも走り続けました。
今は長距離ランが終わったような安堵感を感じています。
本書の「はじめに」でも触れましたが,世の中には,感染症関連の本がたくさんあります。執筆をきめたとき,僕が最初におこなったのは,感染症にたずさわる複数の専門家から情報を収集し,わが国で問題となっている感染症を絞ることでした。
あえて網羅性を捨てて,フォーカスを絞った20の感染症について,徹底的に掘り下げて解説してみようと思いました。
参考書の最大のライバルは,その網羅性において,グーグルによる検索システム,ウイキペディアなどのコンテンツです。これらのサービスでは提供していない「より深部の最新情報」を盛り込むことに,傾注しました。どうせ書くのなら,何故,病気が起きるのか? そこを徹底的に掘り下げてみようと思いました。
そこで,腸管出血性大腸菌感染症,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症,結核をはじめてとして,細菌由来の13の感染症をピックアップしました。一方,ウイルス領域では,SFTSや鳥インフルエンザを含む7つの感染症を取り上げ,今の現状を解説しました (本書の目次はコチラ)。
さらに,微生物に共通する病原性,宿主の防御系については,第3部「感染と防御におけるストラテジー」で説明しました。たとえば,自然免疫のなかで注目されている「オートファジーによる微生物の排除」については,どの参考書よりも最新情報を盛り込んだと自負しております。あと,僕の領域でもある細菌の分泌系は,粘着気質的に攻めています。
単著で書く利点として,参考書全体にわたり統一性を担保できることがあげられます。その一方で,コンテンツの正確性を確保することも重要です。これについては,多くの専門家の先生方に校閲して頂いて,正確性と専門性の強化を図りました。
さらに,編集・校正作業では,羊土社の吉田さんにご助力頂きました。「ここは,これぐらいでも分かるだろう」と思っていた部分に多くのツッコミが入りました(笑)。文章量にすれば,全体の5%ぐらいの部分でしょうか。。。これぐらいなら「僕のやりかたで押し切ろう」と思った部分もありましたが,僕は本を売った経験がありません。実績がない領域で自分のやりかたを通すのは,とても無謀だと思いました。なので,全体を見渡し整合性をつけていく吉田さんの作業を全面的に信頼し,本書の最終的なブラッシュアップをおこないました。結果的に,さらに読みやすくなったと自負しております。
本書は,病原因子と発症のメカニズムについて詳細に解説する一方で,感染動向などの疫学情報や臨床症状についても説明しています。基礎の研究者の皆さんだけではなく,臨床領域の専門家の皆さんにもオススメします。また,これからこの領域に入ろうと思っている学生さんの入門書としても,オススメします。
お近くの書店で,本書を是非,手にとってくださいませ。また,羊土社または下記のウエブサイトでも購入が可能です。
以上,「もっとよくわかる! 感染症」のエピソードでした。
企画のときにお世話になった山下さん,また,伴走頂いた吉田さんに,あらためて感謝致します。