「知的生産の技術」は,1969年に,梅棹忠夫さんという民俗学の研究者が執筆したものです。岩波新書からだされている本書は,今年で89刷ですから,根強い人気があるのですね。40年前の内容とは思えないぐらいに,新鮮でした。
本書ではカードを利用した記述方法について述べていますが,ノウハウを紹介しているのはごく一部です。むしろ,自分なりにいかに工夫して「知的生産の技術」を作り上げていくのか? そのエッセンスについて紹介しています。だから本書は色あせることなく,時代をこえて読まれているのだと思います。
僕的にはカードではなく,Evernoteで,タグ付きメモを管理しています。しかし本書を読んでいくうちに,iPhone上でメモとして,すぐに書き込めるアプリが不在であることに気付きました。Evernoteで音声クリップという選択もありますが,1人マイクに向かって話すのは,カッコ悪い感じがします。そこでiPhoneアプリの手書きソフトであるTouchwriterをインストールしました。手書きのメモには,タグ付けや画像も添付できて,Evernoteに転送することも可能です。ささっと書いて,保存はEvernoteに集約するというアイディアは良いかも知れません。
本書のなかで一番参考になったのは,「梅棹さんの文章」そのものなのです。ひらがなが多すぎなのでは?と思えるくらい,ひらがなを多用しています。しかし独特のリズムがあって,ついつい惹かれてしまいます。コンピュータに頼ってしまうと,絶対に手書きできない漢字とかも多用してしまいますから,本書で,バランス感覚の重要性を学びました。あと,伊集院静氏の文章も,綺麗ですね。あんな綺麗な日本語を書いてみたいです。
文章を書かなければならない人間(研究者なら誰でも)として,「11章 文章」の項目は参考になりました。梅棹さんは文章構成のときに,まず思い浮かんだことを紙切れに記入し,脳のなかに溜め込んでいた雑多な情報を,すべてメモにさらけだして,畳の上に広げてみるというアイディアを出しています。最後に論理的に繋がりのありそうなメモを連結していくことで,文章のコンテクストを構成していくのです。
マインドマップも同じような手法ですね。こちらでも,単語あるいは短いフレーズを思いつくままに記入していって,最終的に繋がりがありそうな項目について,ノード(線)で結んでいくのです。ああでもないこうでもないと,入れ替えていくうちに,自分の思考が整理されていきます。ですから,自由に入れ替え可能な,コンピューター上での操作のほうが,マップの作成に向いていると思います。僕の場合,文章の骨子は,マインドマップで書いています。最初は思いつくままに,言葉・フレーズを書き込んでいくだけなので,何のストレスも感じません。それらの断片が繋がって,文章の骨子になっていく過程も,楽しいものです。
僕の30代での最大の失敗は,初めからワードに向かって書いていたのです。骨子もへったくれもなく,実験順に書き込んでいくということを,していました。しかしそれは骨組みがないままに,外壁から作る家のようなもので,非常に脆弱でした。しかも,自分で,おかしなことに気づきながら,本筋にはなかなか辿りつけなかったのです。僕の場合はマインドマップを使い始めてから,骨子を書きだすのがすごく楽になりました。
論文レビューをしていると,英語のネイティブスピーカーなのに,何でこんなにひどい論文なんだろうというのが,少なくありません。英語うんぬん以前の問題なのでしょう。だから我々日本人でも,努力することで,対抗できるのですが。。。