その頃はコンピューターが普及する以前の時代で,タイプライターが主流を占めていた。ラボにあったタイプライターが IBM の新型に変わり,皆が歓喜した。なぜならそのマシンには,打った文章が1行ぐらい表示される液晶がついており,スペルミスがないのを確認してからバタバタと打ち出せたからである。これによって,修正用の白リボンの消費量が極端に少なくなったのを覚えている。
さてさて研究者として,「英語の論文を書くこと」は避けて通れません。大きいラボなら指導者が直接,英語論文の書き方を指導する時間もないので,自力で書けるようにならないといけません。
また,英語の論文を書く場合にも,マイケル・ジョーダンの格言を肝に銘じておく必要があります。
「たとえば,毎日8時間シュートの練習をしたとしよう。
もし,この場合,間違った技術で練習を続けていたとしたら,間違った技術でシュートする名人になるだけだ。」
ここでは,論文のなかでも根幹をなす「Results」の書き方について解説したいと思います。Results の書き方には決まった流れがあるので,まずそれを理解することが重要です。
【法則1: Results は,図と対応させて書いていく】
あなたの論文は5つの図から構成されるとしましょう。このとき「Results」は下図のように,5 つの「小見出し」から構成されます。そして小見出し 1 からはじまる段落で図 1 の説明をおこないます。
この小見出しには,”A BspR-deficient Strain is Hyper-virulent in Cultured Mammalian Cells” とか,"The N-terminus of BspR is involved in the negative regulation of T3SS" など,図 1 で得られた結果を,端的に表す必要があります。
小見出しに続く段落では,図 1 の実験で明らかになったことを「小さな結果」として,まとめていきます。それを受けて,小見出し 2 からはじまる段落で図 2 の説明をしていきます。ただし後述するように,「前の実験で明らかになったことをさらに確認するために,〇〇を用いて解析をおこなった」とか,ある程度つなぎを入れることが重要です。
また,図 2 に A, B, C と複数の図を入れ込んでいる場合は,段落を適宜わけて記述したほうが見やすいと思います。
図と段落構成は同じにする。言い換えれば,図の説明は段落をまたがない |
【法則2: Results は”小さな結果”を紡いでいくことにある】
「Results」の構成は以下のようになります。小見出しからはじまる段落の冒頭部分は,イントロとして実験の立脚点を述べてから,どのような目的でおこなったのかを簡潔に記述します。次に,そのためにはどうやって調べたのか,その方法について記述します。
「段落冒頭の 3 - 4 行で実験の全体像を提示する」ことで,読者は安心して読み進めることができるのです。
このような手順を踏んでから,どのような結果が得られたのかについて,簡潔に記述していくのです。最後に,その実験によって何が明らかになったのか,その知見を段落末尾に記述します。
段落の構成を解体すると,ある決まったパターンが見えてくる |
【法則3: Results で使われる決まり文句】
ここが一番重要かもしれません(笑)
たとえば,図 1 の実験を説明する場合,段落の冒頭が「Fig. 1 shows ...」なら面食らいますよね。。。どんな目的で,また,どんな実験方法で図 1 が導き出されたのかも説明せずにいきなり図の説明では,あまりに不親切というものです。
なので,「To identify novel type III secreted proteins in B. bronchiseptica, we performed an iTRAQ-based proteomic analysis to compare ...」などの文章を段落冒頭に入れて,図 1 の実験の目的とそのためにどんな実験をおこなったのか,簡単なイントロをつけるのです。
また,段落末尾で上記実験の結果,明らかになった知見を簡単に述べるようにします。
ここは,「These results indicate that ,,,」とか,お決まりの文句でしめるようにします。
次の図 2 の段落も上記と同じように書いていきますが,「To further investigate the effect of BspR on the T3SS, whole bacterial lysates were analyzed by immunoblotting (Fig. 2B). 」などのように,図 1 の結果を受けて,さらに詳しく解析するために,とかの文章でつなぐことが多いです。
基本,図 1 と図 2 で記述するスタイルは同じですが,その間にくる「つなぎ的な文章」もいくつか覚えておくと便利です。
英語論文のスキルとして,頻出する例文を頭に叩き込んでおくことも重要 |
【まとめ】
英語のネイティブではない我々が「英語の論文を書いていく」のは,それなりに時間をつぎ込む必要があります。自分と同じフィールドで,文章がうまい研究者の論文をじっくり解析していくことも重要です。最初は,すべて,模倣からはじまります。
また,日本語のどんな本でも良いから,多読によって言語処理能力を高めておくことも重要です。我々の土台は日本語環境です。英語の論文が書けないという原因は,そもそも日本語の本も読んでいないというところに,あったりします。
まあでも重要なのは,段落のなかに手際よく詰め込む作業と,段落と段落のあいだに違和感のないように「つなぎ」を入れること,これらを自分の文体として,確立することだと思います。
上記の内容は,拙著「ライフハックで雑用上等」から,一部,転載引用したものです。