論文の全体像が仕上がってきたら,いよいよ「アブストラクト」を書いてみましょう。「アブストラクト」は雑誌ごとに単語数・文字数が決まっており,また,1段落でコンパクトにまとめなければなりません。
多くの読者は「タイトル」を見てから,それに続く「アブストラクト」をざっくりと眺めて「この論文は読むに値するのか?」を判斷するので,最初のツカミはとても重要です。
「アブストラクト」では,研究の背景,目的,手法,結果,そして何がわかったのか,端的に示す必要があります。論文の中身を読まなくても読者が理解できるように書く必要があるので,それなりのテクニックは要求されます。まあしかし,「アブストラクト」も決まった秩序があるので,フォーマットに従って書いていけば大丈夫です。
それでは早速,アブストラクトを解体してみましょう(下記論文より引用)。
アブストラクトはできるだけ簡潔に書こう |
「The Bordetella Secreted Regulator BspR Is Translocated into the Nucleus of Host Cells via Its N-Terminal Moiety: Evaluation of Bacterial Effector Translocation by the Escherichia coli Type III Secretion System. 」 PLoS ONE, 10(8), e0135140. http://doi.org/10.1371/journal.pone.0135140」
冒頭でざっくりとした背景を述べます。次に,BspRの続報なので,これまでに明らかにしたことを簡潔に述べておきます。
読者に予備知識を提供してから,今回の研究目的とそのための研究手法について述べていきます。通常,実験手法はもう少し短くても良いのですが,「エフェクターの評価系について」もこの論文で強調したいところなので,このようなかたちになりました。
アブストラクトは研究内容の全体像を俯瞰し読者にアピールするところなので,論文がほぼ出来上がってから書いたほうが良いと思います。
また,ほとんどの読者は,PubMedなどで論文検索をするので,自分の研究領域の研究者に拾ってもらえるようなキーワードを「タイトル」に入れる必要があります。
面接でも第一印象が重要ですが,論文を読んでもらうためには,タイトルとアブストラクトで読者をガッチリ掴む必要があります。
【おわりに】
「初めて英語論文を書く若手研究者へのアドバイス」として,このブログを書いてきましたが,今回が区切りとなります。
このシリーズにお付き合い頂きましたブログ読者の皆さまに,感謝致します。
僕よりうまく論文を書ける先生方は,それこそ,たくさんおられるかと思います。しかし長年査読していて,ラボのボスが若手研究者や学生にしっかりとした論文指導しているのは,2割ぐらいなんじゃないかな,,,と感じるようになりました。
日本人だから英語が書けないのではなくて,そもそも論文フォーマットの指導を受けていないのが原因なんだろうと思います。それで少しでも参考になればと思い,ざっくりと論文作法について解説してきました。
皆さんの実り多い研究生活を祈念致します。
一部,拙著「ライフハックで雑用上等」から転載引用しました。