2010-12-10

製薬企業の皆様へ

BMB2010のポスター会場にて何気にメールをチェックしていると,The Journal of Antibiotics に投稿した雑誌がオンラインに掲載されたという知らせがきていました。本論文の研究は1999年から着手して,ようやく一段落つきました。約10年の月日が流れたことになります。

A small-molecule inhibitor of the bacterial type III secretion system protects against in vivo infection with Citrobacter rodentium.

これまでIII型分泌装置の阻害剤については様々な報告がありますが,in vivoで効力があったものは皆無でした。我々のグループでは北里生命科学研究所の創薬グループ(生物機能研究室,微生物機能研究室)と協力し,in vivoで効果のあるIII型分泌装置阻害剤を見つけ出そうということで,このプロジェクトがスタートしました。

III型分泌装置は多くのグラム陰性病原細菌に高度に保存されており,この分泌装置の機能を阻害すると病原性が極端に低下します。一方,この分泌装置は菌の生育に直接関与していないので阻害しても殺菌には至りません。III型分泌装置阻害剤は,薬剤耐性という問題を回避できる可能性があるので,薬剤開発の新たな標的として注目されています。

僕がこの10年で思ったのは,in vitroで効果があるものをさらに上にあげる,つまりin vivoで効くモノを世の中に出すということは,並大抵の覚悟ではできないということでした。今回の薬剤は残念ながら新規ではありませんでした。過去にaurodoxという薬剤で発見されており,作用機序はテトラサイクリンと同様な機能をもつとされています。しかしながら今回の実験で,aurodoxはIII型分泌装置の阻害により特異的であることを突き止めました。

新規ではないので特許も取っていません。製薬企業の方にお願いしたいのは,このaurodoxを出発物質として分泌装置阻害剤開発をさらに突き進めて欲しいのです。感染症に関しては儲からないという理由で,製薬企業が撤退しつつありますが,分泌装置阻害剤については,まだまだ未知の領域です。しかもaurodoxを出発材料にできるので開発費はほぼゼロ。論文には構造活性相関を示しておりますので,あとはより活性の高いものをとって頂ければと思います。

残りの人生もジェネリック医薬品を売ることに費やしたいか,それとも世界を変えるチャンスが欲しいか?

スティーブ・ジョブスの有名なセリフのパクリですが,今こそ,製薬各企業が根性を見せるときでしょう。 


誰に根性を見せるの? 


もちろん僕にみせるんだよ。