MBLさんのパンフにまじって,高遠シンポジウムのパンフレットが入っていました。よくよく見ると,錚々たるメンバーがスピーカーに名を連ねておりました。内容のほとんどは,僕の知らない領域でした。
専門をはなれると知らないことばかりです。そこでシンポジウムのポスターセッションにアプライしました。ポスターセッションの演者に採択されれば,交通費のサポート&参加費が免除されます。50のおっさんがアプライして場違いな印象を与えるのかなーと思いましたが,無事に採択され,参加の機会を得たのです。
新宿からバスで4時間弱で,長野県伊那市につきました。そこからシンポジウムのスタッフに先導され,マイクロバスで山深いホテルに移動しました。
お昼をそそくさと食べ,ポスターを掲示し,シンポジウム会場に足を踏み入れました。最初の印象は,山奥にこんなに人が集まっているのか! でした。しかも,小安重夫先生,川口 寧先生以外には,誰も知った顔がありません。覚悟してきたもののアウェー感が激しく漂いました。
まあでもこのシンポジウムの良い所は,見知らぬ先生方と同室になって,すぐに打ち解けられることです。こういった形式の学会はなかなかないので,どんどん増やして欲しいです。ちなみに細菌学・若手コロッセウムは,この形式を堅持しています。あわじ感染症・免疫フォーラムは,いつの間にか個室になってしまいました。これはもとに戻してほしいですね。
さて,シンポジウム内容は本当に僕の専門外でした。まあしかしバクテリアのエフェクターによる感染戦略は,宿主側因子と密接に関わっておりますので,大いに楽しむことができました。
シンポジウムをキーワードで羅列すると,植物の小胞体流動からはじまって,遺伝暗号のリプログラミングを利用したペプチド創製,少数性の生物学から,ゲノム倍化による遺伝子のダイナミックな変動(変異),ヒストンメチル化と幹細胞,女王バチを決定するロイヤラクトン,脊椎動物が季節を感知するしくみ(知りたい謎にもっとも適した材料を選ぶことが重要),守護神後の染色体分配(解析手法がすごかった),単純ヘルペスの単純ではなかったレセプター発見,Wntシグナルと心筋細胞分化,個体発生と系統発生
雑然としているようですが,「生命の制御系の進化を探る」というメインテーマにふさわしいものでした。懇親会は児玉龍彦先生のスピーチではじまりました。そのスピーチのなかで,これからはエントロピー増大によって拡散したものを,また集めるようなサイエンスが必要なのではと,おしゃっておりました。ちょうどコーヒーに入れたミルクを,もう一度,コーヒーとミルクに分離するような学問体型(サイエンス)です。直接,昨年の出来事に触れることはなかったのですが,重い言葉でした。
ポスターセッションが22時に終わって,それから情報交換会(飲み会とも言いますが)がはじまりました。特定領域でお世話になりました小安重夫先生,川口寧先生と歓談しました。それからN保先生(北大),世話人の倉永先生ともディスカッションすることができて,大いに盛り上がりました。
このようにして24時間の濃密な時は過ぎていきました。できたら2日間ぐらいの会期で,もっとじっくりディスカッションしたかったですね。特に今回のシンポジウムでは,各先生方がどのような執念で,自分たちの研究領域を創製していったのか? 非常に参考になりました。かつての詩人(注1)は,それを「さびしきみち」と表現しています。
先駆者として未だ知らざる土を踏みしめながら,ちらちらとゆれるはかない光を目指していった日本人研究者の熱い思いがあって,リアル「情熱大陸」の世界でした。
僕のいびきで眠れなかった東京薬科大学の学生さん,T先生(静岡県立大学),すみませんでした。世話人の先生方,MBLの皆様方,お世話になりました!
(注1)さびしきみち
かぎりなくさびしけれども
われは
すぎこしみちをすてて
まことにこよなきちからのみちをすてて
いまだしらざるつちをふみ
かなしくもすすむなり