2011-06-19

腸管出血性大腸菌O104についてのアップデート

ドイツのロベルト・コッホ研究所は「もやしなどの新芽野菜」がO104 腸管出血性大腸菌(EHEC)の感染源である可能性が高いとした(6月10日)。穀物種子を人工的に発芽させれば「もやし」と呼ばれる食材になるので,問題はどの種子によるものなのか,また,汚染源の同定が必要となってくる。これについてはWHOのホームページで,O104腸管出血性大腸菌の情報が頻繁にアップデートされているので,ドイツに渡航される方はざっと見ておいたほうがよいかもしれない。

今回のO104 EHECは新種なのか?

O104 EHECのゲノム配列については既にBGIとドイツの共同でドラフト版が完成しており,かなりの情報が明らかにされつつある。これについてはBGIのホームページに詳しい。結論を述べると従来のO157 EHECと比較して異なっている部分が多く「新型」と定義することが可能である。ただし2001年に分離されたO104 EHECと多くの点で共通しているので,もともと存在していたO104 EHECに水平伝播を介して,抗生物質の耐性遺伝子や付着因子などが取り込まれて「強毒化」した可能性が高い。強毒化についてはO104 EHECの性状をさらに解析する必要性があるが,今回の大流行では大人において重篤な症状に発展するケースが多かったことから,これまでの腸管出血性大腸菌の制御法をそのまま応用することは危険かもしれない。

ドイツで流行しているO104 EHECの特徴

2001年に分離されたものと今回のO104 EHECは,腸管凝集性大腸菌 (EAEC 55989 E. coli strain) に極めて類似していたこと(DNA塩基配列レベルで93%の同一性)から,腸管凝集性大腸菌に志賀毒素(ベロ毒素)を取り込んだかたちの腸管出血性大腸菌と定義することができる。 腸管凝集性大腸菌の特徴は遷延性下痢を起こすことである。3歳以下の乳幼児が感染した場合,平均17日を経て下痢が惹起される。このような長い潜伏期間の特徴が,現在大流行しているO104 EHECにも受け継がれていると,感染源を特定することがさらに困難となる。またドイツに渡航した旅行者の追跡調査も複雑になってくる。

これらの情報は随時アップデートしていきます。