2010-12-19

ハーバードの人生を変える授業

という本を買った。ハーバードだからすごいことになっているだろうと思い,期待して買ったら,最初のチャプターが「感謝する」であった。あまりにも当たり前のことなので拍子抜けしたが,実はこの本にぞっこんである。

ほとんどの研究者は具体的に書き出して,論文の骨子を練るはずだ。あるいは,研究の短期,中長期目標を書き出して,タイムスケジュールにそって研究を進めているはずだ。

しかし,いざ自分のことになると,何人の研究者が自分という対象に向かって具体的なことを書いているのであろうか。ようするに自分をさらけだして,自分なりに問題提起をして,自己解決をはかるという訓練をどれだけの人間がしているであろうか。僕の場合,自分について具体的に何かを書くということは,何か恥ずかしい感じして(他人に見せることなく捨ててしまうようなものでも),これまではしてこなかった。だから,自分について書き出していく「ハーバードの人生を変える授業」はとても参考になった。

手で書くというのは,不思議な行為である。例えば「困難から学ぶ」というセクションでは,これまで辛かったことをせきららに書き出していくわけ。最初は外的要因に関する愚痴ばかりが,ばーっとオンパレードしていく。もう,これでもか,これでもかってぐらいの愚痴の連発(笑)。しかし書きなぐっていくうちに,不思議と自分というものが見えてくるのですね。書き出してみたら自分の辛かったことって,実は小さな出来事ではなかったのか? そう思えてくるのである。愚痴なんかA4サイズの1/3も書けないから,やってみてちょ。

ここからは僕の私的解釈

書き出してしまえば紙片の1/3にも満たない辛かった感情が,バグとなって負のループを作っていたのですね。そのバグを目の前にさらけだすと「何だ,たいしたことないじゃん」となるわけ。ストレスとなっている感情<バグ>は,脳の外にきちんと出して,目の前で検証しないと「バグをバグとして認識できない」のです。たぶん。。。「ハーバードの人生を変える授業」はシンプルなメソッドで,脳内のバグをとるという素敵なテキストです。

年の瀬にぜひどうぞ。

追記: 他のポスドクから,「そんな本を読む時間があったら,僕は論文を読む」と留学時代に言われたことがあります。でも,いかに生きていくかについては論文には答えが書いてありません。少なくとも我々の論文では,人生についてのディスカッションがありません。そのためには色々な本をたくさん読んで,たくさん感じること,自己解釈をつけていくことが重要だと思います。読解力をつけることは,そのまま英語論文の読解力にも繋がります。

2010-12-11

BMB2010 ご報告

先日,BMB2010に参加してきました。また,小柴琢己先生(九州大学),嘉糠洋陸先生(帯広畜産大学)がオーガナイズされたワークショップにて「ボルデテラ属細菌の自然免疫回避機構」というタイトルで発表の機会を与えられました。ワークショップに参加された先生方を下記にアップしましたが,どの先生方も素晴らしい研究内容でした。このようなワークショップに参加すると,一瞬,蹴落とされたような感じになりますが,まだまだやらなければならないことがたくさんあると思いました。

私は細菌学会をメインとして活動しています。また庶務理事も担当し,メインの学会では情報収集よりも,学会を成功裏に終わらせることに専念しています。学会開催中は各種委員会も開催されます。最初に理事になったときに,重要な委員会を欠席してしまいました。午前中のセッションでディスカッションした先生とついつい話がはずんでしまい,委員会も忘れその先生と一緒にランチにでかけてしまいました。その失敗以来,委員会にはきちんと出席していますが,学会での本来の活動は自分にとって二の次になりました。理事の任期は,あと1年です。

何のオブリゲーションもないBMB 2010は,興味のあるシンポジウムを何の制約もなく聴くことができて本当に幸せでした。ブロークンな英語で質問し,さすがにsusceptibleという単語をきちんと発音できなくて焦りましたが,まあ言いたいことは相手に伝わったと思います。

私はラコステのポロシャツ,GAPのチノパンに,ニューバランスの993という出で立ちで発表したのですが,満員の会場は結構,黒服が目立ちましたね。細菌学会もかなりの黒服ですが,「こっちもそんなに変わりないだろ」と思いました。来年の細菌学会の関東支部総会は僕が世話人を務めますので,基本ノーネクタイでの参加にします。座長のスタイルも,前発表者が次の座長を務めるようにします。若手がなじむようなスタイルでやったら,本当に学会が活性化するのか? 世話人という立場を活かして来年はガチで行きたいと思います!

負けねえ。

2010-12-10

製薬企業の皆様へ

BMB2010のポスター会場にて何気にメールをチェックしていると,The Journal of Antibiotics に投稿した雑誌がオンラインに掲載されたという知らせがきていました。本論文の研究は1999年から着手して,ようやく一段落つきました。約10年の月日が流れたことになります。

A small-molecule inhibitor of the bacterial type III secretion system protects against in vivo infection with Citrobacter rodentium.

これまでIII型分泌装置の阻害剤については様々な報告がありますが,in vivoで効力があったものは皆無でした。我々のグループでは北里生命科学研究所の創薬グループ(生物機能研究室,微生物機能研究室)と協力し,in vivoで効果のあるIII型分泌装置阻害剤を見つけ出そうということで,このプロジェクトがスタートしました。

III型分泌装置は多くのグラム陰性病原細菌に高度に保存されており,この分泌装置の機能を阻害すると病原性が極端に低下します。一方,この分泌装置は菌の生育に直接関与していないので阻害しても殺菌には至りません。III型分泌装置阻害剤は,薬剤耐性という問題を回避できる可能性があるので,薬剤開発の新たな標的として注目されています。

僕がこの10年で思ったのは,in vitroで効果があるものをさらに上にあげる,つまりin vivoで効くモノを世の中に出すということは,並大抵の覚悟ではできないということでした。今回の薬剤は残念ながら新規ではありませんでした。過去にaurodoxという薬剤で発見されており,作用機序はテトラサイクリンと同様な機能をもつとされています。しかしながら今回の実験で,aurodoxはIII型分泌装置の阻害により特異的であることを突き止めました。

新規ではないので特許も取っていません。製薬企業の方にお願いしたいのは,このaurodoxを出発物質として分泌装置阻害剤開発をさらに突き進めて欲しいのです。感染症に関しては儲からないという理由で,製薬企業が撤退しつつありますが,分泌装置阻害剤については,まだまだ未知の領域です。しかもaurodoxを出発材料にできるので開発費はほぼゼロ。論文には構造活性相関を示しておりますので,あとはより活性の高いものをとって頂ければと思います。

残りの人生もジェネリック医薬品を売ることに費やしたいか,それとも世界を変えるチャンスが欲しいか?

スティーブ・ジョブスの有名なセリフのパクリですが,今こそ,製薬各企業が根性を見せるときでしょう。 


誰に根性を見せるの? 


もちろん僕にみせるんだよ。

2010-12-01

スーパーフェザー級になって

先日のブラジリアン柔術大会は初戦敗退でした。これまでフェザー級でしたが年齢的に67キロのパワーを維持することが困難になってきました。20代はずっと63キロだったので,1ランク下げて戦えるんじゃないかと,無謀な挑戦にでました。1ランク下はスーパーフェザー級で61キロです。普段は70キロなので(試合前に減量して67キロにあわせます),約9キロの減量でした。

格闘系アスリートは通常,炭水化物抜きで,ささみなどの肉類でウエイトを落としていくのですが,僕は真逆な方法を選びました。すなわち玄米食と野菜・大豆のみで,肉,魚,乳製品,卵,砂糖をとらないという作戦です。この方法のメリットは,玄米はたくさん食べても太らないので満腹感を得ながらウエイトダウンが可能なことです。欠点として,はじめの1ヶ月ぐらいは無性に肉が食べたくなることです。それを過ぎればあとは粗食に慣れてきます。今回は,試合直前に体重(水分)を落としすぎて,ふくらはぎがつってしまいました。これも実力がないからですが,次回はもっと慎重にいきます。

また,これを機会に練習方法を改良しました。スパーリングの最中にポイントを考えて動くようにしました。自分がリードしているのか,相手がリードしているのか,ポイントを計算して練習するようにしました。昨日のスパーリングは3勝3敗で,自分としては納得の成績でした(選手の多くは,僕よりも5から20キロオーバーなので)。

試合には練習にはない何か?があります。

例えば敗北を受け入れること。

敗北から何を学ぶのかも,試合にでなければ,得られないのです。